疲れた夜に、湯気の向こうを覗く|『ラーメン赤猫』と「とある」シリーズ4作品レビュー

雪降る夜の窓辺で、湯気立つ湯呑みとラーメン、古い本やノートが並ぶ木製デスクを暖かなランプが照らしているレビュー系ビジュアル
静かな冬の夜。 湯気の立つラーメンと古書に囲まれながら、『ラーメン赤猫』と「とある」シリーズを語り尽くすレビュー時間。

札幌在住、32年の現場経験を持つ元技術者・健一が、ボルト一本の軋みを聞き分けるように、アニメの「心の軋み」を読み解く。能力バトルの華やかさより、キャラクターの不器用な体温に光を当てる――そんな視点で綴った4作品のレビュー集です。


はじめに――なぜ「とある」シリーズと『ラーメン赤猫』なのか

能力者が空を駆け、電撃が街を切り裂く。そんな派手な画面の裏側で、キャラクターたちはどこか不器用に汗を流し、泥臭く生きている。

『とある』シリーズの面白さは、超能力という非日常の中に、案外と「日常の軋み」が描き込まれているところにある。レベル5の少女が掃除に汗をかき、最強の能力者が病室で誰かを案じる。その落差こそが、この作品群の呼吸を支えている。

『ラーメン赤猫』もまた、見かけの愛らしさの奥に「働く者の矜持」を抱えた作品だ。32年間、油まみれの現場で機器のメンテナンスを続けてきた身からすると、あの猫たちが纏う「仕事人」の空気は、どこか自分の歩んできた道と重なって見える。

このページでは、私がレビューしている4作品――『ラーメン赤猫』『とある科学の超電磁砲』『とある魔術の禁書目録』『とある科学の一方通行』――それぞれの入口をご案内する。お茶を一杯淹れるような気持ちで、ゆっくり覗いていってもらえたら嬉しい。


『ラーメン赤猫』――猫の手も借りたい、ではなく、猫が仕事を回している

ジャンル:日常/お仕事/コメディ
原作:アンギャマン
視聴環境:地上波・各種配信サービス

猫たちが従業員として働くラーメン屋に、一人の人間女性・珠子がアルバイトとして飛び込んでいく。あらすじを文字にすればそれだけの話だ。だが、この作品の本当の手触りは、その「だけ」の中にこそ宿っている。

猫たちは可愛い。可愛いのだが、ただの愛玩動物ではない。仕込みの段取り、客あしらい、後輩への目配り――現場の人間が見れば、思わず襟を正したくなる「仕事人」の所作が随所に挟まれる。私が32年間スタンドで叩き込まれた「段取り八分」という言葉が、自然と頭に浮かんでくる。

そして珠子という人物の置かれた背景――家庭の重さを背負って職場を渡り歩いてきた若い女性の姿には、現代の働く人なら誰しも、どこかで身につまされる部分があるのではないか。猫の柔らかな毛並みの下に、ちゃんと「労働」と「居場所」の物語が織り込まれている。

派手な事件は起こらない。だからこそ、湯気の向こうに見える小さな表情の変化に、こちらの心が静かに動かされる。日々の仕事に少し疲れた夜、丼から立ち上る湯気のような温かさが欲しくなったら、ぜひ覗いてみてほしい一作だ。

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『とある科学の超電磁砲』――電撃の少女が見せる、等身大の歩幅

ジャンル:SFアクション/学園/能力バトル
原作:鎌池和馬/冬川基
主人公:御坂美琴(レベル5・電撃使い)

学園都市の名門・常盤台中学に在籍する、レベル5の電撃使い・御坂美琴。230万都市に7人しかいない最高位能力者の一人――そう書くと、いかにも近寄りがたい少女に思える。

しかし、いざ画面の中の彼女を眺めていると、レベル1から這い上がってきた泥臭い歴史を、友人の前でぽろりとこぼしてしまうような、等身大の中学生としての姿が見えてくる。掃除に汗をかき、後輩の暴走に頭を抱え、夕暮れのプールサイドでスポーツドリンクを傾ける。完璧に見える能力者たちが、案外と私たちと変わらない「歩幅」で日々を進んでいる――そこに、この作品の人間味の核がある。

白井黒子、初春飾利、佐天涙子という4人の関係性も、見れば見るほど味わい深い。能力の格差、出自の違いを越えて、彼女たちは「同じ現場で汗を流した仲間」として、ゆっくり絆を編み上げていく。32年の現場経験から言わせてもらえば、ああいう関係は、歓迎会の席ではなく、最悪の日の記憶を共有した先にしか生まれない。

能力バトルの派手さに目を奪われがちな作品だが、私のレビューでは、その合間に挟まれる「日常の体温」のほうに重きを置いて書いている。

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『とある魔術の禁書目録』――記憶を失っても、振り上げた拳は嘘をつかない

ジャンル:SFアクション/伝奇/能力×魔術
原作:鎌池和馬
主人公:上条当麻(無能力者・「幻想殺し」の右手)

『とある』シリーズの本流にあたるのが、この『禁書目録』だ。主人公・上条当麻は、能力者を育てる学園都市に身を置きながら、自身は無能力者(レベル0)。ただし右手に宿る「幻想殺し」が、あらゆる超常の力を打ち消してしまう。

科学サイドの能力者と、魔術サイドの異能者。本来交わるはずのなかった二つの世界が、当麻という少年を軸に複雑に絡み合っていく。物語のスケールは『超電磁砲』よりも大きく、登場人物の業も深い。

私が惹かれるのは、当麻という人物の頑固さだ。記憶を失ってもなお、目の前で誰かが理不尽に泣いていたら、迷わず拳を振り上げる。あの不器用さは、能力やレベルで人間を計る学園都市の論理に対する、ささやかな、しかし確かな抵抗にも見える。

現場で長く働いていると、肩書きや等級で人を見る癖が、自分にも他人にも染みついてくる。それを一度ぜんぶ取っ払って、目の前の人間の痛みだけを見つめる――当麻という少年の在り方は、現代を生きる私たちにこそ、突きつけてくる問いを抱えているように思う。

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『とある科学の一方通行』――最強の能力者が、誰かのために膝を折る話

ジャンル:SFアクション/能力バトル/贖罪の物語
原作:鎌池和馬/山路新
主人公:一方通行(レベル5・ベクトル操作)

学園都市第一位――その肩書きの重みを、これほどまでに静かに、しかし執拗に描いた作品もそう多くはない。

一方通行は、かつて「絶対能力進化計画」の中で、数えきれない命の上に立ってきた男だ。最強であることの代償として、彼の足元には埋めきれない過去が積み重なっている。物語が始まる時点で、彼はすでに病室のラスト・オーダーという少女のために、その力の使い道を変え始めている。

私はこの作品を、「贖罪」というよりも「折り合いをつける」物語として読んでいる。過去はどう逆立ちしても消えない。だからこそ、目の前にいる小さな命に対して、自分は今日何ができるのか――その問いと一方通行が向き合い続ける姿が、痛々しくも美しい。

32年の現場で、私もまた、若いころに犯した手痛い失敗をいくつも抱えてきた。あれは何度時間が経っても消えてくれない。それでも、目の前にいる後輩のため、家族のため、明日もボルトを締め続ける。一方通行という男の歩みは、規模こそ違えど、そういう「凡人の覚悟」とも地続きの場所にあると思う。

シリーズの中では一番、画面が暗く、台詞が刺さる作品だ。重たい夜にこそ、じっくり腰を据えて観てほしい。

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このブログの読み方――「現場の眼差し」というフィルター

私のレビューは、いわゆる解説サイトや作画批評とは少し毛色が違う。能力の設定考察も、原作との比較もほどほどに、私が一番こだわって書いているのは、キャラクターたちの「現場での身のこなし」だ。

32年間、寒い北国でガスのスタンドに立ち続けた人間にとって、画面の中の少年少女たちが流す汗や、不器用に交わす言葉は、どこか自分の知っている景色と重なって見える。だから私の文章には、機械の整備の話や、若い後輩との思い出が、しばしば差し挟まれる。アニメの感想文としては脱線が多いと、ご容赦いただきたい。

それでも、「効率」や「タイパ」ばかりが叫ばれる現代において、あえて時間をかけて一話を噛みしめるような読書体験を、誰かに届けたいと思っている。雪国の夜のストーブのように、ちりちりと小さく熱を発する文章でありたい――それが、このブログを続けている理由だ。


プロフィール

健一(けんいち)/札幌在住・61歳
32年間、石油業界の最前線でプラントのメンテナンスに従事してきた元エンジニア。厳寒の地でボルト一本、バルブ一つの「軋み」を聞き分けてきた経験は、今、アニメの中に生きるキャラクターたちの「心の軋み」を読み解く力へと姿を変えた。

現在は統合失調症の妹と高齢の母をケアする生活者として、日々「ままならぬ現実」と対峙している。効率やスピードばかりを尊ぶ現代において、あえて時間をかける「手入れ」の尊さを説く。書く言葉は、雪の夜のストーブのように、不器用だが確かな熱を宿すと信じている。

― 健一

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