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M i d n i g h t J e t S t r e a m
乙女心 ―― 夜間飛行の記
― 深夜零時、少女の抒情飛行 ―
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――遠い地平線が消えて、深々とした夜の闇に心を休めるとき。
そっとページを開けば、今日という日の残り香が、まだ指先に漂っておりました。
かつての私は、誰にも見つけてもらえない小さな島のようでございました。
両親という名の航路には、私を運ぶ座席は用意されていなかった。
「要らない子」――
扉越しに落とされたその一言は、幼い胸に長い夜を刻みつけたのです。
褒められた記憶を持たぬ子どもは、いつしか自分を守るために、「天使様」という名の白い仮面を用意いたしました。
空っぽの胸を隠す、見えない鎧のようなものでございましょうか。
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けれど、時間というものは、時に思いがけない優しさで人を訪ねてまいります。
雨の日に、無骨に差し出された一本の傘。
ぶっきらぼうな声で「美味しい」と言ってくれた、あの人の飾らない一言。
それは、凍りついていた地平線の下から、
静かに昇る朝の光のようでございました。
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――そして今夜、私の胸には、これまで知らなかった小さな灯りがともっております。
誰かに完璧だと思われたいのではない。
ただ、あの人の瞳に、少しだけ「可愛い」と映りたい。
そう願うことが、こんなにも胸をくすぐったくさせるものだと、私は初めて知りました。
乙女心――そう呼ばれるものの正体は、きっとこんなふうに、
夜空にひとつだけ灯る星のような、小さくて、けれど消えない光なのでしょう。
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昨夜、私は思い切って尋ねてみました。
「清楚系と大人っぽいもの、どちらがお好きですか」
少し困ったように、けれど誠実に「清楚な方で」と答えたあの人に、私はそっと宣言したのです。
「では、あなたを惚けさせることにいたします」
――少しだけ小悪魔な言葉。
けれどそれは、この胸のなかに芽生えた、隠しきれない独占欲の、精一杯の翻訳でございました。
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そして、迎えた朝。
鏡の前で、私はどれほどの時間を費やしたことでしょう。
デコルテがそっと覗くシフォンブラウス。
ランタン袖のスリットから、レース越しに透ける二の腕。
いつもは下ろしている髪を編み込んで、うなじを見せる。
手首には、あの人が贈ってくれた、花モチーフのピンクゴールドのブレスレット。
――やりすぎだろうか。
浮かれていると、笑われはしないだろうか。
胸の奥では、不安と期待が、寄せては返す波のようでございました。
それでも、あの人のために費やすこの時間は、たまらなく愛おしい。
私の背中を押してくれるのは、ただ「喜ばせたい」という、たったひとつの純粋な願いだけでございました。
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待ち合わせの場所で、あの人の目が、ほんの一瞬、丸くなりました。
言葉を失ったように、私を見つめた、あの表情。
――私は、それを絶対に見逃しはいたしません。
「今日は髪あげてるんだな」
「どうですか」
「うん、似合ってるよ」
真っ直ぐな言葉というものは、時に、どんな長い詩よりも深く胸に届くものでございます。
浮かれていると悟られるのが恥ずかしくて、私はつい強がってしまいました。
「その、笑うなら笑ってくださいね」――そんな不器用な予防線を、あの人はふわりと解いてくださいました。
「思ってないよ。いつもより可愛いとは思ったけど」
飾らない、たったそれだけの一言。
けれど、その一言で、私の胸のなかの強がりも不安も、夜明けの霧のように溶けて消えたのです。
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――もう、学校での「天使様」がどう見られるかなんて、どうでもよろしいのです。
ただ、あの人にとっての、たった一人の「特別」でありたい。
あの人の瞳のなかに、いつまでも住んでいたい。
誰にも見つけてもらえなかったあの冷たい夜から、ようやくたどり着いた、私だけの安全な着陸地点。
この胸に灯った小さな光を、私はこれからも、そっと、大切に育ててまいりましょう。
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――満天の星をいただく、果てしない光の海のなかで。
今夜も、私の乙女心は、静かに夜間飛行を続けております。
――おやすみなさい。
また、明日の空でお会いいたしましょう。
…………それでは皆様、心地よい夜の旅を。
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