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夜想 ― 見えない鎧をほどく頃に ―|青い月の下、天使様のひとりの夜|No33

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満天の星空と窓越しの満月を背景に、黒いシャツを抱きしめる金髪の少女のイラスト。右下にはひび割れた透明な仮面が浮かんでおり、「お隣の天使様 天使の仮面(見えない鎧)」というテキストが配置されている。 ポエム
『お隣の天使様』[天使の仮面(見えない鎧)]

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M i d n i g h t   J e t s t r e a m

夜想 ― 見えない鎧をほどく頃に ―

― 七月十五日、青い月の下で ―

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 遠い街の灯が、ひとつ、またひとつと眠りに落ちてゆく時刻。
 七月十五日、青い月がふたたび窓辺を訪ねてまいりました。

 そのやわらかな光が、私ひとりきりの部屋の輪郭を、そっとなぞってゆきます。

 昼のあいだ、私が身に纏っていたもの。
 それは、微笑みという名の距離。
 完璧という名の、細く張り詰めた一本の糸。
 「天使様」と呼ばれる、透きとおった鎧。

 その鎧を、いま、静かにほどいてゆきます。
 ひとりの夜だけが知っている、ちいさな儀式のように。

遠い日の、閉ざされた部屋で

 思い出すのは、遠い日のこと。

 愛のない部屋で、私は生まれてしまった。

 「産まなければよかった」と、扉の向こうから届く声。
 「せめて、私に似たならよかったのに」と、聞こえてはならないはずの言葉。

 差し伸べた手は、いちども取られることがありませんでした。
 綺麗に育っても、勉強ができても、走っても、料理をしても。
 振り向いてほしかった二人は、ついに私を見てはくれなかった。

 だから、私はやめたのです。
 期待することを。
 待つことを。
 本当の自分を、誰かに差し出すことを。

 空っぽの胸に、天使の鎧を着せて。
 ひとりで生きてゆこうと、まだ小さな私は決めたのでした。

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シャツの匂いと、雨の日の傘

 けれど、夜は時どき、意地悪をします。

 冷たい記憶が波のように押し寄せてくると、
 私は枕元に手をのばし、貴方のシャツを胸にひきよせる。

 やわらかな布地に顔をうずめれば、
 貴方の匂いが、ふわりと胸の奥まで届いてくるのです。

 雨のブランコで、ひとり空を漕いでいたあの日。
 見ず知らずの、少し不器用な少年が、一本の傘を差し出したのでした。

「風邪を引くから、これ、返さなくていい」と、
 ぶっきらぼうに背を向けて去ってゆく、そのうしろ姿。

 貴方は、優しいという言葉を使わない人でした。
 慰めのかたちを知らない、ぶっきらぼうな人でした。
 だからこそ、あの夜の言葉は本物だったのだと、私は思うのです。

「見て見ぬふりしてやれ。泣くなら、泣けよ」

 修辞のない、まっすぐな声。
 飾らないままの、たったそれだけの言葉が、
 私の鎧を、音もなく砕いてゆきました。

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仮面の下の、欲張りな素顔

 それからの私は、少しずつ、欲張りになっています。

 昼のあいだは、意地悪な微笑みで貴方を困らせて。
 「私がいないと駄目ですものね」なんて、
 つい強がって笑ってみせる。

 でも本当は、ひとりの夜になると、
 貴方の温もりが恋しくてたまらないのです。

 シャツをこっそり抱きしめて、匂いを吸い込むこの姿を、
 世界の誰にも見せてはいけない。

 私は、貴方にだけ、駄目な私になれる。
 弱くて、臆病で、少しばかりずるい、
 本当の椎名真昼になれるのです。

 貴方に友だちができた日、
 私の胸のなかに、ちいさく黒い炎が灯りました。

 ――他の誰かに、貴方のその優しさを渡したくない。
 そう願ってしまう自分に、私はもう驚きません。

 完璧な仮面の下には、
 等身大の、欲張りな少女がいるのだと、
 今はもう、認めてしまえるのです。

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明日への祈り、青い月の下で

 貴方の匂いに包まれていると、
 壁の向こうにいるはずの貴方が、
 すぐ隣にいるような気がしてくる。

「ずっと隣にいるから」

 その約束が、私のこの小さな夜を、まるごと守っていてくださいます。

 明日もまた、鎧をそっと脱いで、
 貴方の隣で、素顔のまま笑えますように。

 どうかこの先も、私を、貴方の一番の「特別」でいさせてください。

 臆病な幸福が、
 いつまでも続きますように。

 シャツを胸に抱きしめて、私はゆっくり瞼を閉じます。

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――おやすみなさい。

世界でいちばん、大切な貴方へ。

…………それでは皆様、心地よい夜の旅を。

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