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M i d n i g h t J e t s t r e a m
夜想 ― 見えない鎧をほどく頃に ―
― 七月十五日、青い月の下で ―
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遠い街の灯が、ひとつ、またひとつと眠りに落ちてゆく時刻。
七月十五日、青い月がふたたび窓辺を訪ねてまいりました。
そのやわらかな光が、私ひとりきりの部屋の輪郭を、そっとなぞってゆきます。
昼のあいだ、私が身に纏っていたもの。
それは、微笑みという名の距離。
完璧という名の、細く張り詰めた一本の糸。
「天使様」と呼ばれる、透きとおった鎧。
その鎧を、いま、静かにほどいてゆきます。
ひとりの夜だけが知っている、ちいさな儀式のように。
遠い日の、閉ざされた部屋で
思い出すのは、遠い日のこと。
愛のない部屋で、私は生まれてしまった。
「産まなければよかった」と、扉の向こうから届く声。
「せめて、私に似たならよかったのに」と、聞こえてはならないはずの言葉。
差し伸べた手は、いちども取られることがありませんでした。
綺麗に育っても、勉強ができても、走っても、料理をしても。
振り向いてほしかった二人は、ついに私を見てはくれなかった。
だから、私はやめたのです。
期待することを。
待つことを。
本当の自分を、誰かに差し出すことを。
空っぽの胸に、天使の鎧を着せて。
ひとりで生きてゆこうと、まだ小さな私は決めたのでした。
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シャツの匂いと、雨の日の傘
けれど、夜は時どき、意地悪をします。
冷たい記憶が波のように押し寄せてくると、
私は枕元に手をのばし、貴方のシャツを胸にひきよせる。
やわらかな布地に顔をうずめれば、
貴方の匂いが、ふわりと胸の奥まで届いてくるのです。
雨のブランコで、ひとり空を漕いでいたあの日。
見ず知らずの、少し不器用な少年が、一本の傘を差し出したのでした。
「風邪を引くから、これ、返さなくていい」と、
ぶっきらぼうに背を向けて去ってゆく、そのうしろ姿。
貴方は、優しいという言葉を使わない人でした。
慰めのかたちを知らない、ぶっきらぼうな人でした。
だからこそ、あの夜の言葉は本物だったのだと、私は思うのです。
「見て見ぬふりしてやれ。泣くなら、泣けよ」
修辞のない、まっすぐな声。
飾らないままの、たったそれだけの言葉が、
私の鎧を、音もなく砕いてゆきました。
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仮面の下の、欲張りな素顔
それからの私は、少しずつ、欲張りになっています。
昼のあいだは、意地悪な微笑みで貴方を困らせて。
「私がいないと駄目ですものね」なんて、
つい強がって笑ってみせる。
でも本当は、ひとりの夜になると、
貴方の温もりが恋しくてたまらないのです。
シャツをこっそり抱きしめて、匂いを吸い込むこの姿を、
世界の誰にも見せてはいけない。
私は、貴方にだけ、駄目な私になれる。
弱くて、臆病で、少しばかりずるい、
本当の椎名真昼になれるのです。
貴方に友だちができた日、
私の胸のなかに、ちいさく黒い炎が灯りました。
――他の誰かに、貴方のその優しさを渡したくない。
そう願ってしまう自分に、私はもう驚きません。
完璧な仮面の下には、
等身大の、欲張りな少女がいるのだと、
今はもう、認めてしまえるのです。
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明日への祈り、青い月の下で
貴方の匂いに包まれていると、
壁の向こうにいるはずの貴方が、
すぐ隣にいるような気がしてくる。
「ずっと隣にいるから」
その約束が、私のこの小さな夜を、まるごと守っていてくださいます。
明日もまた、鎧をそっと脱いで、
貴方の隣で、素顔のまま笑えますように。
どうかこの先も、私を、貴方の一番の「特別」でいさせてください。
臆病な幸福が、
いつまでも続きますように。
シャツを胸に抱きしめて、私はゆっくり瞼を閉じます。
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――おやすみなさい。
世界でいちばん、大切な貴方へ。
…………それでは皆様、心地よい夜の旅を。
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