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灯りのともる夜に ― 夏のプールと、内緒の黒ビキニ ―【真昼のミッドナイト・ダイアリー】|No30

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夕焼けの海辺で青いドレスを着た金髪の少女がドリンクを持つアニメイラスト。「お隣の天使様 健気な背伸び No30」の文字入り。 ポエム
夕陽に輝く海辺で、ドリンクを手に静かに微笑む金髪の少女。

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S u m m e r   P o o l   D i a r y

 

灯りのともる夜に ―― 健気な、背伸び

― 夏のプールと、内緒のひとかけら ―

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……こんばんは。

 窓の外では、夏の夜が、静かに息をひそめています。
 遠くで、微かに聞こえる、水の音。
 それは、昼間のあの喧騒の名残りでしょうか。それとも、私の胸の奥で、まだ小さく揺れている、あの日の水面のきらめきでしょうか。

 今夜は、少しだけ、正直な気持ちを、貴方に聴いていただきたいのです。

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一、鎧を纏っていた日々に

 思えば、ずいぶん長いあいだ、私は、息を潜めて生きていました。

 

「困るなら、産まなければよかったのにね」
 扉の向こうから聞こえた、その声を、私は今でも、覚えています。

 子どもだった私は、その言葉の意味を、正確には知りませんでした。ただ、心の真ん中に、ぽっかりと、冷たい風の通る場所ができたことだけを、覚えているのです。

 だから私は、微笑むことを覚えました。
 誰からも咎められないように。
 誰からも、これ以上、傷つけられないように。

「天使様」と、人は呼びました。
 けれど、その仮面の下にあったのは、透きとおるほどに空っぽな、小さな心
 まるで、誰も訪ねてこない、暗い部屋の窓辺に、ひとつだけ灯された、消えかけの灯りのようでした。

 ……そんな夜が、いつまでも続くのだと、思っていたのです。

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二、水着を選んだ、あの午後

 貴方と出会って、季節が、いくつめぐったでしょう。

 プールへ行こう、と、貴方が言ってくださったあの日。
 私は、鏡の前で、ずいぶん長いこと、迷っていました。

 

「際どくない方向で」
 そう言ってくださった、貴方の気遣いは、いつものように、優しく、穏やかで。

 けれど、その優しさに、ただ甘えるだけの水着を選ぶことが、どうしても、できなかったのです。

 ――世界にたった一人、貴方にだけ、可愛いと、思ってほしい。
 ――いつも紳士的な貴方を、ほんの少しだけ、揺らしてみたい。

 千歳さんと選んだのは、普段の私からは、少しだけ遠い場所にある、大人びたデザインの一枚でした。
 それは、恋を知ってしまった女の子の、ささやかで、けれど、たしかな、挑戦。
 背伸びの、跡でした。

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三、水面のお披露目

 待ち合わせの場所で、貴方は、少しだけ、言葉を失ったように、こちらを見ていましたね。
 私は、それを、見逃しませんでした。

 

「――すごく、似合ってる」

 

「あんまり、他の男に、見せたくない」

 修辞も、比喩も、なにもない、ただそれだけの言葉。
 けれど、その不器用な独占欲が、夏の陽に照らされた水面よりもずっと明るく、私の胸の内で、きらきらと、揺れたのです。

 ……ああ、この人は、いつも、そうです。
 飾らない言葉で、そっと、私の一番やわらかな場所に、灯りをともしてくれる。

 背伸びは、届いたのでしょうか。
 少なくとも、あの一瞬、私の心は、たしかに、貴方に届いていた気がするのです。

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四、二人だけの、小さな箱庭

 賑やかなプールサイド。
 歓声、水しぶき、遠くで鳴る笛の音。

 けれど、貴方の隣にいるだけで、そこは、不思議なほどに静かでした。
 まるで、夏の喧騒の真ん中に、そっと切り取られた、二人きりの、小さな箱庭のようでした。

 

「もし溺れたら、人工呼吸でもしてやりますよ」
 少しだけ意地悪に笑った貴方に、私は、勇気を出して、上目遣いで返します。
「溺れないと、してくれないのですか」

 慌てて視線をそらす貴方を見つめながら、私は、確信していました。

 ――どこにいても、貴方の隣が、私の場所なのだと。
 ――どんなに人の多い場所でも、貴方が隣にいてくれるなら、そこは、私にとって、生涯変わらない、いちばん安全な港なのだと。

 

「貴方と一緒だから、見えるもの全部が、キラキラしているんです」
 そう伝えたとき、貴方は、また少し、照れたように笑いましたね。

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五、内緒の、黒いビキニ

 日が傾きはじめる頃、千歳さんが、悪戯っぽい笑みで、こう囁いたのです。

 

「真昼ん、もう一つ、黒の紐も、あったんじゃないの?」

 ……ええ。
 本当は、もう一枚、候補にしていた水着がありました。
 もっと、大人びた、際どい、黒のビキニ。

 それは、誰の目にも触れない、ほんとうに、貴方と二人きりの時にだけ、こっそりと解いてみたい、私の、小さな秘密。
 貴方だけに贈る、私からの、ささやかな特権でした。

 学校では、みんなに微笑む「天使様」でいい。
 知らない誰かの視線なんて、もう、どうでもいいのです。
 ただ、貴方の瞳の中に映る私だけが、世界でいちばん、特別であればいい。

 そう思えるようになったこと。
 それが、貴方と出会って、私がいちばん、変わったところなのかもしれません。

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結び

 夏の夜は、更けてゆきます。

 背伸びをして、少しだけ大人びた水着を選んだ、あの日の私。
 鏡の前で、頬を赤らめていた、あの日の私。
 それらのすべてを、これからも、私は、大切にしてゆきたいのです。

 

 だって、貴方をドキドキさせるためになら、私は、何度でも、背伸びをしてみせる。
 それが、恋する女の子の、ささやかで、けれど、この上なく、大切な、誓いだから。

 ……今夜は、このあたりで。
 どうか、良い夢を。

 窓辺の灯りは、まだ、消しません。
 貴方が、いつでも帰ってこられるように。

――おやすみなさい、私のたいせつなひと。

どうか、よい夢を。

…………ミッドナイト・ダイアリー、水面のきらめきの章。
また、次の夜に、お会いいたしましょう。

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