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七月、朝の光のなかで ~ある少女の、ひそやかな朝の手記~|No28

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青い海と空を背景に、白と水色のドレスを着た金髪の少女が健やかに背伸びするアニメイラスト ポエム
夏の海辺で、隣の天使様が爽やかな光を浴びながら健やかに背伸びする一場面。

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S u m m e r   M o r n i n g   D i a r y

七月、朝の光のなかで

― ある日の日記より ―

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 七月の朝は、まだ空気のなかに、夜の名残をわずかに含んでいます。

 カーテンの向こうから差し込んでくる光は淡く、やわらかく、
 まるで、昨夜見ていた夢の続きのようでした。

 今日、あなたと出かける約束をした朝のこと。
 私はクローゼットの前で、何度も服を胸元に当てては、鏡の中の自分と目を合わせていました。

 服を選ぶという、ただそれだけのことが、
 こんなにも胸を高鳴らせるものだったなんて。
 かつての私は、知らずに生きてきたのです。

 いつからでしょうか。
 私は、誰にも咎められないための衣装ばかりを、身に纏うようになっていました。
 それは薄氷のように冷たく、けれど、確かな鎧でした。

「天使様」――
 そう呼ばれる微笑みの奥には、
 必要とされないことに慣れてしまった、小さな少女がずっと座っていたのです。

 けれど、今朝、私が鏡に映しているのは、その鎧ではありません。
 ただ、あなたの瞳のなかに映るためだけの、私の姿でした。

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――清楚系と、大人っぽいもの。どちらがいいですか。
 そう尋ねた、あの夜のことを、思い出しています。

 少し困ったように「清楚な方で」と答えてくれた、あなたの声。
 私はそれを、大切な楽譜のように、心のなかで何度もなぞっていました。

 選んだのは、襟ぐりの少しひろいシフォンのブラウスです。
 長いランタン袖の側面には、そっとレースのスリットが開いていて、
 腕を上げると、透けた肌が、朝の光のなかで小さく息をするのです。

 それは、あなたとの約束を守りながら、ほんの少しだけ、大人へと背伸びをしてみたい――
 私の、内緒の企みでした。

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 髪は、編み込んで、うなじを見せることに決めました。
 猫ちゃんと遊ぶのに邪魔にならないから。
 そう自分に言い聞かせながら、
 本当は、いつもと違う私を、あなたに見つけてほしかっただけなのかもしれません。

 手首には、ホワイトデーにあなたが贈ってくれた、花のかたちのブレスレットを、そっと。
 金色でもなく、銀色でもない、淡いピンクゴールド。
 それは、私とあなたのあいだにだけ流れる、秘密の光のようでした。

 鏡のなかの私は、いつもより少しだけ大人ぶっていて、
 そして、いつもより少しだけ、頼りなげでした。

 やりすぎでしょうか。浮かれていると、笑われるでしょうか。
 不安が、朝の湖面のように、静かに、静かに、揺れていました。

 けれど、その揺らぎの奥に、たしかな灯りが、ひとつ。
 ――あなたを、驚かせたい。
 ――あなたを、私だけの手で、ドキドキさせたい。

 いつも余裕そうに微笑む、そのあなたが、
 少し困ったように目を伏せる瞬間を、
 私はこの世で一番、独り占めしたいと、思ってしまうのです。

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 深呼吸を、ひとつ。
 廊下の向こう、あなたの部屋の扉の前へと、私は歩き出しました。
 足音が、自分でも驚くほど、鮮やかに響いていました。

――おはようございます。
 そう声をかけた瞬間、
 あなたの目が、ほんの少しだけ、丸くなりました。

 言葉を探すように、私を見つめたまま、止まった、一秒。

 その一秒を、私はきっと、生涯忘れないでしょう。
 それは、私のささやかな背伸びが、
 あなたの心に、たしかに届いたことの、しるしだったのですから。

「……髪、あげてるんだな」

 少し遅れてこぼれた、あなたの声は、
 いつもよりわずかに硬く、けれど、確かにあたたかい響きでした。

「猫ちゃんと遊ぶのであれば、邪魔になりますから。……どうですか」
 少し首を傾げてみせる私に、あなたは、まっすぐに答えてくれました。

「うん、似合ってるよ」

 その短い一言が、
 夜通し降り続いた雨のあとの、朝の匂いのように、
 私の胸の奥まで、静かに、静かに、染み込んでいきます。

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「……笑うなら、笑ってくださいね」
 強がって、つい目を逸らしてしまう私に、
 あなたは、飾らない声で言いました。

「思ってないよ。いつもより可愛いとは思ったけど」

 ああ、と、私は思います。

 かつて、誰も見つけてくれなかった小さな少女は、
 ようやく、たったひとりの人の瞳のなかに、
 「可愛い」と呼ばれる、あたたかな場所を見つけたのだと。

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 学校での「天使様」など、もう、どうでもいいのです。
 世界中のどんな称賛も、あなたのその一言の前では、羽根よりも軽い。

 これからも、きっと私は、背伸びを続けるのでしょう。
 何度でも、何度でも、あなたのために。

 それは、健気で、少しだけ滑稽で、
 けれど、この世で一番、幸福な、小さな冒険なのです。

 七月の朝の光のなかを、
 私は、あなたと並んで、歩き出します。

 夏のはじまりの、少しだけ眩しい、その方向へ――。

――いってらっしゃい、私のたいせつなひと。

どうか、よい一日を。

…………それでは皆様、光あふれる朝の旅を。

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