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M i d n i g h t D i a r y
夜のしじまに、あなたへ
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――夜のしじまに、ひとつ、また、ひとつ。
遠い日の記憶が、ゆっくりと灯をともしはじめます……
六月十七日。
雨上がりの空に、まだ陽が傾きはじめたばかりの頃。
あの日までの私は、誰にも見つけてもらえない場所で、ただ静かに息をしておりました。
「要らない子」――
幼い耳に降り積もったその言葉は、雪のように冷たくて、けれど決して融けることはなく……
私は、いつしか手を伸ばすことを忘れていったのです。
天使。
そう呼ばれるたび、胸の奥で、誰かが静かに泣いておりました。
褒められても、微笑まれても、その声は、私の本当の名を呼んではくれなかった……。
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ところが、ある雨の日のこと。
通りすがりの不器用な手が、一本の傘を、私に押しつけて去っていきました。
ただ、それだけのことだったのです。
ただ、それだけのことが、凍りついた時計の針を、かちり、と動かしたのでした。
タッパーに詰めた夕餉。
湯気の向こうで、あなたは言いました。
「美味しい」と。
まっすぐな、飾らないその一言が……
ああ、どれほど長いあいだ、私が待ちつづけていた声だったでしょうか。
夜更けの台所。
肩を寄せあうソファの距離。
熱に浮かされた指先が、無意識に、あなたの袖を掴んだ夜。
「手を握っていて」――
子供のような甘えを、あなたは静かに包み込んでくれました。
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そうして、ある晩。
私は、ずっと胸の奥に閉じこめていた過去を、そっと開いて見せたのです。
あなたは、泣きませんでした。
ただ「泣くなら泣けよ」と、低く、優しく、それだけを言って……
重い鎧が、ひとひら、ひとひら、剥がれ落ちてゆくのが分かりました。
「ずっと隣にいるから」
その一言が、私の世界の真ん中に、静かに灯をともしました。
もう、迷わなくていい。
もう、ひとりではない。
六月十七日。
誰にも祝われることのなかったはずのこの日が、
今は、こんなにも温かい。
窓辺のくまのぬいぐるみが、夜の薄明かりのなかで、ほんの少し微笑んで見えます。
あなたが、私の帰る場所になってくれました。
空っぽだった胸に、ひとつ、またひとつと、灯がともってゆきます……。
――おやすみなさい。
世界でいちばん、大切なあなたへ。
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【お隣の天使様「臆病な幸福」No.5】
お隣の天使様「臆病な幸福」No.5|天使をモチーフにした少女と幸福感の演出を、柔らかな光と装飾で綴った一篇。安心感と憧れの情景を読み解いた。
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