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水面(みなも)に映る、いちばん素直な私|椎名真昼のサマーポエム日記|No29

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夕暮れのリゾートビーチでフラッペを手に、青いワンピース姿で穏やかな表情を見せる金髪の少女のイラスト。 ポエム
夕焼けの海辺で優しく微笑む、健気で純粋な乙女のひととき。

S u m m e r   P o o l s i d e   D i a r y

水面(みなも)に映る、いちばん素直な私

― ある夏の夜の、ひそやかな独白 ―

 夜のとばりが、静かに窓辺に降りてきます。
 机の灯りをひとつだけ点(とも)して、私はきょうという一日を、そっと日記の頁にひらいてみます。

――ねえ、あなたは知っていましたか。

「天使様」と呼ばれる私が、その仮面を、ひそかに脱ぎたくてたまらない夜があることを。

水面のきらめきと、少しだけの背伸び

 昼のプールで揺れていた水面のきらめきが、いまも瞼の裏で小さく光っています。

 選んだのは、少しだけ大人びた水着でした。誰かに褒めてもらいたかったわけではありません。
 ただ、あなた――周くん、あなたひとりの瞳のなかで、いちばん綺麗でありたかった
 ただ、それだけのことでした。

 背伸びと呼ぶには、あまりに小さな一歩。
 けれどその一歩を踏み出すために、鏡の前で、私は幾度も深呼吸をくり返したのです。

あなたの、ひとことの音

 待ち合わせの場所で、あなたは私を見て、ほんの少し言葉を失いました。

「2人きりならよかった」

――そう、静かにこぼれたひとこと。

 それは、聞こえるか聞こえないかの、けれど確かに私だけに届いた、あなたの独占欲の音でした。

 不器用で、まっすぐで、少しだけずるい、そのひとことに、
 私はきょう、いちばん深く恋をしてしまったのだと思います。

ふたりだけの、静かな箱庭

 水は冷たく、光は眩しく、私は本当は、泳ぐことがすこし怖い。

 けれど、あなたが隣にいるだけで、あの喧騒の真ん中は、ふしぎと静かな箱庭になりました。

 歓声も、水音も、遠くのラジオのように滲んでゆく。
 世界にたったふたり、水面(みなも)のうえに浮かぶ、小さな安全基地

 そんな場所を、私はきっと、これから何度でも思い出すのでしょう。

内緒の一着と、素直な私

――もうひとつの水着のこと、あなたに知られてしまいましたね。

 公衆の面前では、とても着られない、細い紐の、内緒の一着。
 けれど、ふたりきりの、誰も見ていない場所でなら。

 そう囁いた昼の私を、今夜の私は、ほんの少しだけ叱ってあげたい気持ちです。
 そして、ほんの少しだけ、抱きしめてあげたい気持ちでもあるのです。

 天使の仮面の下に、こんなにも欲張りで、こんなにも小さな乙女がいたことを、
 私は今夜、はじめて認めてもいいと思いました。

 それは、あなたのまなざしが、私に教えてくれたこと。
 あなたの瞳のなかでだけ、私は、いちばん素直な、いちばん等身大の、私でいたいのです。

おやすみのしるしに

 日記帳を、閉じます。灯りを、そっと消します。

 瞼の裏には、まだ、あの水面のきらめきが残っています。
 そのきらめきよりも、きっと眩しかったあなたの横顔を胸に抱いて、
 私は、今夜も、静かな夢のなかへ降りてゆきます。

――おやすみなさい、周くん。

明日もまた、あなたの隣で、いちばんの「特別」で、いさせてください。

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