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S u m m e r N i g h t D i a r y
夜のしじまに綴る、ひそやかな手記
― ある少女の、星のような独白 ―
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しんと冷えた窓の外。
夜空には、誰に届くともしれない星々が、今夜もまた静かに瞬いております。
このペンを取ったのは、ほんの気まぐれ。
けれど書き始めてみれば、不思議なほど、貴方の面影ばかりが、便箋の上をそっと流れてゆきます。
……ねえ、覚えていらっしゃいますか。
私の心が、まだ凍りついた湖のようだった頃のことを。
呼べど、応えぬ声。
伸ばせど、握り返されぬ手。
扉の向こうから降ってくる、刃のように冷たい言葉たち。
私は、いつの間にか手を伸ばすことを忘れ、
笑うことだけが上手になっていきました。
「天使様」――
それは、空っぽの胸に着せた、銀色の鎧の名前。
誰にも踏み入らせぬための、しなやかで、かなしい鎧でございました。
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雨が、降っておりましたね。
濡れたブランコの鎖が、軋んだ音を立てて。
世界のすべてが灰色に滲んでいたあの夕暮れに、貴方は、たったひとつの傘を、無造作に私へ差し出してくださいました。
「返さなくていい」と、
ぶっきらぼうに背を向けて去ってゆく、そのうしろ姿。
……今でも瞼を閉じれば、雨音の向こうに、ありありと浮かんでまいります。
あの傘の柄に残っていた、ほのかな温もり。
あれが、私の凍えた指先に灯った、最初のあかりでした。
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タッパーに詰めた夕餉。
並んで座るソファの、ささやかな距離。
湯気の向こうで、ふと笑ってくださる、貴方の横顔。
ひとつ、またひとつと、
日常という名のかけらが、私の手のひらに、そっと積もってゆきます。
ある夜、私は震える声で、長らく胸に沈めてきた澱を、貴方の前に零しました。
返ってきたのは、慰めでも、同情でもなく――
ただ、一枚の毛布のような、不器用なぬくもりだけ。
「俺は割と好きだぞ」
修辞もなく。
飾りもなく。
ただ、事実だけを置いてゆくような、その一言。
……あれは、魔法だったのでしょうか。
長い長い冬の終わりに、雪解け水が静かに大地を潤すように、
鎧は音もなく崩れ、私という人間が、ようやく息をすることを許されたのでした。
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膝の上で、安らかな寝息を立てる貴方。
夜のしじまに、規則正しく繰り返されるその呼吸を、
私は、世界でいちばん貴いものを預かるような心地で聴いておりました。
油断しきった寝顔。
ふいに緩んだ口元。
さらりと指の間をすり抜けてゆく、柔らかな髪。
学校では、誰にも見せぬ素顔を、こうして私の膝の上にだけ預けてくださる。
その事実が、胸の奥に、灯篭のような淡いあかりを点してゆきます。
「駄目にしてしまいたい」――
そんな小さな悪戯心を、ふと抱えてしまうほどに。
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けれど、本当は気づいているのです。
駄目にされているのは、ほかでもない、この私のほうだということに。
「手を握っていて」と、
わがままを口にできるようになった私。
「ずっと隣にいるから」と、
迷わず誓ってくださる貴方の声に、
ほろりと泣いてしまうようになった私。
凍てついた湖は、いつしか春の野になりました。
歩いてゆけば、貴方の足音が、いつもすぐ隣に聴こえてまいります。
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夜空の、いちばん遠い星にまで届くようにと願いを込めて。
私を見つけてくださって、ありがとう。
冷たい雨の日に、傘を差し出してくださって、ありがとう。
名もない私の手を、迷わず取ってくださって、本当に、ありがとう。
これからの長い旅路を、貴方の隣で。
ときに駄目な私のままで。
ときに少しだけ強がりながら。
ゆっくりと、歩んでまいりましょう。
夜風が窓を撫でて、ペンを置く時間が参りました。
――おやすみなさい、私のたいせつなひと。
どうか、よい夢を。
…………それでは皆様、心地よい夜の旅を。
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