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【お隣の天使様】夜に綴る、飾らない全肯定の手記|真昼から周への静かな独白|No22

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夜景が広がる部屋でノートに文字を書きながら微笑む金髪の少女を描いた「お隣の天使様 飾らない全肯定 No22」のイラスト。 ポエム
夜の静けさに包まれながら、ありのままを優しく受け止めてくれる「お隣の天使様」の穏やかなひととき。

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S u m m e r   N i g h t   L e t t e r

飾らない全肯定 ―― 夜の手記

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――夏の夜の帳が、街にそっと降りてくる頃。
 時計の針だけが、ふたりきりの時間を、ひとつ、またひとつと、刻んでまいります……

シャープペンが紙の上を滑る、その微かな音。
それだけが、この部屋を満たしている、すべて。
 貴方の隣に座り、私は、ノートに向かうその横顔を、誰にも気づかれないように、ただ静かに見つめておりました。

 

第一章|夜の机に響く、シャープペンの音

学校では、誰も貴方の本当の姿を知らない。
気怠げに、目立たないように、教室の片隅で息をしている、ひとりの男子生徒。
けれど、夜のこの部屋でだけ、貴方は、真っ直ぐな眼差しを見せてくれます。
 学年十位以内という、誰にも見せない努力の証を、世界中で、私だけが知っている。

その事実が、胸の奥に、甘く、静かに灯ります。
ひとには言えない、小さな、けれど確かな ―― 独占欲、と呼んでもいいでしょうか。

 

そっと席を立ち、キッチンへ。
昨日焼いた、一口サイズのフィナンシェ。
こんがりと、きつね色に焼き上がったそれに、可愛らしいピックを刺して。
 淹れたてのコーヒーの香りが、夜の空気に、ゆっくりと、ほどけてゆきます。

ふと、胸の奥を、冷たいものがよぎりました。
幼い頃、どれほど完璧に振る舞っても、誰にも褒めてもらえなかった、あの頃の記憶。
私の作ったお菓子を、貴方は、本当に喜んでくれるだろうか ―― 。
 影のような不安が、湯気の向こうで、揺れては、消えてゆきます。

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第二章|修辞のない、ひとことの「美味しい」

「周くん、どうぞ」
机の端にトレイを置くと、貴方は参考書から顔を上げ、少し驚いたように、目を丸くしました。

 

「……すげえうまい」
たった、それだけの言葉。
修辞も、比喩も、何もない、無骨な、たった一言。

けれど、その言葉に、嘘はひとつもありません。
計算もない。世辞もない。
ただ、純粋な喜びだけが、そこに在りました。

長い間、凍りついていた何かが、その一言で、静かに、溶けてゆくのを感じます。
 夜の海に、ひと筋の月明かりが落ちるように。

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第三章|見えない鎧を、溶かしてゆく魔法

愛し合って結ばれたわけではない、両親のもとに、私は生まれました。

 

「困るなら産まなければよかったのにね」
「要らない子」
 幼い私に向けられた、その冷たい言葉たちを、私は、今も、忘れることができません。

期待することを、諦めた。
愛されることを、諦めた。
 「天使様」という見えない鎧を纏って、私は、ひとりで生きてゆくのだと、心に決めていたのです。

けれど ―― 。

貴方は、ある夜、私が震える声で過去を打ち明けたとき、安っぽい同情の言葉を、ひとつも、口にしませんでした。
ただ、静かに、「泣くなら泣けよ」と、悲しみを受け止めてくれた。

 

「俺は割と好きだぞ。
お前の素を見ても、
それが好きだって奴が、ここにいるだろ」

天使様という仮面ではなく、欠点だらけの、ただの「椎名真昼」を。
 事実として、ありのままに、肯定してくれた、あの夜。

あれは、魔法だったのだと、今ならわかります。
 重く、冷たく、私に張り付いていた鎧を、ゆっくりと、けれど確かに溶かしてゆく、静かな魔法。

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第四章|特等席で、永遠の誓いを

フィナンシェを食べ終え、コーヒーをひと口含んで、貴方はまた、参考書に向き直りました。
 その頼もしい背中を、シャープペンが奏でる、規則正しい音を、私は、隣の席という ―― 私だけの特等席で、静かに見つめます。

 

「お前って尽くすタイプだよな、本当」
いつか、貴方が呆れたように、けれどどこか嬉しそうに、こぼした言葉。
「尽くしたい人に尽くすだけですし」 ―― そう答えた私の声には、隠しきれない独占欲が、確かに、滲んでいたはずです。

けれど、本当は、私が一番よく知っている。
貴方の不器用な優しさに、すっかり駄目にされているのは、間違いなく、私のほう。
 誰の前でも見せられなかった、無防備で、弱い、ほんとうの私を ―― 貴方の前でだけは、曝け出せるようになったのですから。

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誰も私を見てくれなかった、冷たい世界の、ずっと向こう側。
 長い旅の果てに、ようやく辿り着いた、生涯失われることのない、絶対的な安全基地

飾らない、たった一言の「美味しい」が、ここには在ります。
その言葉が聞けるこの場所で、私はこれからも、ずっと ―― 貴方だけの「幸せの味」を、作り続けてゆきたい。

 

「ずっと、隣にいてくださいね」

穏やかなコーヒーの香りに包まれて。
夜の静けさに抱かれて。
 私は、愛おしい貴方の横顔に向けて、心の中で、そっと、永遠の誓いを立てるのでした。

――おやすみなさい ―― 。

明日も、隣に、貴方が、いてくれますように。

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