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S t a r f e s t i v a l N i g h t
笹の葉に、ひとひらの祈りを
― 七夕、夜のしじまに揺れる、ひとつの願い ―
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――夜のしじまに、笹の葉が、ささやかに揺れている。
七月の宵闇。
窓辺に吊るされた色とりどりの短冊は、まるで星の欠片が、舞い降りてきたかのよう。
そのひとつに、彼女は、誰にも見せない願いを、そっと書きつけた。
淡いピンクの紙の上を、ペン先が、ためらいながら、けれど確かに、走ってゆきます……。
書き終えた短冊を、彼女はくるりと裏返し、胸の奥にそっと抱き寄せました。
「秘密です」――
ささやくような声で。
夜風よりも、もっと、密やかに。
願い事は、人に教えると、叶わなくなる――
そう信じてきた幼い日々の名残りを、彼女は今も、大切に、大切に、抱きしめているのでした。
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かつて、彼女には、書ける願いが、ひとつもありませんでした。
短冊を前にしても、ペンを握ることすら、怖かった日々があったのです。
「要らない子」――
そう告げた、両親の冷たい声。
どれほど美しく咲こうとも、
どれほど賢く育とうとも、
誰の瞳にも映らなかった、小さな少女。
手を伸ばしても、その手を取ってくれる人は、誰もいませんでした。
だから、彼女は、手を伸ばすことを、やめたのです。
願うことを、諦めたのです。
空っぽの短冊のように、息を殺して、夜の片隅で、ただ静かに、生きておりました……。
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けれど、ある雨の日のこと。
傘を持たぬ彼女のもとへ、ひとつの傘が、無造作に差し出されました。
不器用で、ぶっきらぼうで、けれど、確かな温度を持った、その手。
それから、ふたりは、湯気の向こうで、言葉を交わすようになりました。
硝子の器に注がれた、冷たい麦茶。
扇風機の風がほどけてゆくなか、あなたは言いました。
「美味しい」と。
そのひと言が、彼女の凍りついていた時間を、かちり、と動かしてゆきました。
愛されることを諦めていた少女の心に、ゆっくりと、灯がともる。
そして気づけば、その胸の奥に、ひとつの「欲」が、芽生えていたのです。
もっと、そばにいたい。
もっと、見ていてほしい。
もっと、わたしだけを――
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笹の葉の裏側。
誰からも、もっとも見つかりにくい場所に、彼女は、その小さな短冊を、そっと結びつけました。
書いた言葉は、たったの、一行。
『明日もその先も、
わたしがあなたの一番でいられますように』
それは、神様への祈りでは、ありません。
星への願いでも、ない。
彼女がその願いを届けたいのは、ただひとり――
隣に座る、あなたへ。
特別な奇跡など、彼女は望んでいないのです。
ただ、明日も、明後日も、その先もずっと、この、確かな日常の中で、
あなたが、わたしだけを見てくれること。
それだけが、彼女の、たったひとつの、欲張りな願い。
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すべての短冊を結び終えて、彼女はそっと、隣を見やりました。
窓の外の夜空を、静かに見上げる、あなたの横顔。
穏やかで、頼もしくて、けれど、どこか少しだけ、遠くを見ている、その瞳。
伝えたい言葉は、たくさんある。
けれど、それを声に出すには、彼女はまだ、少しだけ、臆病で。
だから、代わりに、彼女は、こう、つぶやいてみるのです。
「……少し、夜風が、冷たいですね」
そっと伸ばした指先が、あなたの服の袖を、ほんの少しだけ、つかむ。
振り払われることのなかった、その手のひらに、ゆっくりと、確かな温もりが、伝わってまいります。
ここは、彼女の、ささやかな帰り場所。
ここは、誰にも譲ることのない、絶対の、安息の地。
笹の葉の向こうに揺れる、夜空の星々よりも、
あなたという光のほうが、ずっと、ずっと、眩しいから。
彼女は、袖をつかむ指に、ほんの少しだけ、力をこめて、
夜の祈りを、心の奥深くで、そっと、結んだのでした。
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――遠い夏の宵、笹の葉に揺れた、ひとつの願いの物語。
――おやすみなさい。
どうか、よい夢を。
… … … … そ れ で は 皆 様 、 心 地 よ い 夜 の 旅 を 。
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