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M i d n i g h t J o u r n a l
夜のしおり
― 安全基地という名の港 ―
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…遠い空のどこかで、今夜もひとつ、星がまたたいているのでしょう。
機窓の向こう、雲海の彼方に揺らぐ街の灯のように、
人の心の奥にも、誰にも見せない小さな灯が、
ひとつ、ともっています。
…こんばんは。
今宵お届けするのは、ある少女のしおりから紡がれた、
静かな夜の手記です。
仮面、というものを、あなたはご存知でしょうか。
人は、傷つかないために、優しさという布で顔を覆うことがあります。
微笑みという名の、薄い、けれどとても重い布で……。
…彼女もまた、そうでした。
「天使」と呼ばれるたび、胸の奥に積もっていく、見えない雪。
誰にも踏まれることのない、白く冷たい雪の庭で、
彼女はひとり、長いあいだ立ち尽くしていたのです。
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…雨の日のことでした。
差し出されたのは、傘ひとつ。
ぶっきらぼうな声と、不器用な指先。
「風邪、引くから」
――ただ、それだけの言葉。
けれどその短い一節が、長く凍っていた庭に、
ひとひらの春を運んできたのです。
…人は、たったひとつの優しさで、生まれ直すことができる。
そんなことを、彼女はそのとき、初めて知ったのかもしれません。
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夜が更けて、灯りを落とした部屋の片隅。
膝の上に預けられた、誰かのあたたかな重み。
指先をすべる、やわらかな髪。
…静かに、ゆっくりと、
規則正しい寝息が響きはじめます。
世界でいちばん近い距離で、
世界でいちばん遠い場所まで、心を委ねきった人のかたち。
それは、「信じる」という言葉の、
いちばん美しい形なのでしょう。
…かつて、信じることに傷ついた人が、
ふたたび誰かに身を預けるまでには、
長い長い夜があったはずです。
その夜の長さを、彼女は知っています。
だからこそ、いま膝の上にある、
この穏やかな寝顔の意味も、痛いほどに。
…ひとはきっと、
誰かを駄目にしながら、誰かに駄目にされながら、
ようやくひとつの港にたどり着くのですね。
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翌朝の光は、いつもより少しだけ、
やさしかったのだそうです。
ソファの毛布、運ばれたぬくもり、
触れずに守られた一夜の距離。
その慎ましさのなかにこそ、
本当の優しさは宿るのだと、
彼女はそっと書き留めました。
帰る場所がある、ということ。
それは、夜空を渡る翼にとっての、
滑走路の灯のようなものなのかもしれません。
どれほど遠くへ飛んでも、
どれほど高く昇っても、
あの灯の方角を知っているだけで、
人は迷わずに生きていける――。
…遠い夜の窓辺で、
今宵もきっと、誰かが誰かの寝息に、
そっと耳を澄ましていることでしょう。
世界でいちばん、安心できる場所で。
世界でいちばん、大切な人の隣で。
…おやすみなさい。
よい、夜を。
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