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【お隣の天使様】夜のしずく|真昼から周へ綴る、雪解けのミッドナイト・ダイアリー|No14

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淡いピンクと白に彩られた幻想的な空間で、くまのぬいぐるみを抱きながらこちらを見つめる天使のような少女のイラスト。 ポエム
優しさの奥に隠された見えない鎧が、少女の儚い眼差しにそっと映し出される。

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M i d n i g h t   D i a r y

夜のしずく

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……夜が、しずかに更けてゆきます。

窓の外、街の灯りはひとつ、またひとつと、ちいさな星座のように瞬いて。
 私は今、この静けさの中で、ペンを取りました。

遠い日のことを、お話ししましょうか。

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六月十七日。
あの頃の私は、たぶん、誰の目にも映っていませんでした。
 立派な家の、立派な娘。ピアノが弾けて、勉強ができて、いつも微笑んでいる女の子。
 ──けれど、その微笑みの下で、私はずっと、息を潜めていたのです。

扉の向こうから届く、母の声。
「あの人によく似てるわ」。
 たったそれだけの言葉が、幼い私の胸を、何度も、何度も、貫いていきました。

……手を伸ばすことを、やめました。
……期待することを、やめました。
……そして、私は、天使になったのです。
 誰にも触れられない、誰にも触れない、冷たくて綺麗な、ひとりの天使に。

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── 雨の音を、覚えていますか。

あの日、私はブランコに揺られていました。
空っぽの胸に、雨だけが降り積もっていく、そんな夕暮れ。

貴方は、何も言わずに傘を差し出してくれましたね。
「返さなくていい」。
 ただそれだけを残して、雨の中を歩いていった、あの不器用な背中。

……今でも、私の胸の真ん中に、あの背中が残っています。

それから、いくつもの夜が過ぎました。

タッパーに詰めたお夕飯。
ソファの、隣の温度。
テレビの音と、ふたりぶんの息づかい。
 ──ありふれた、ささやかな時間。
けれど、それは、私がずっと知らなかった
「人の温もり」というものの、ほんとうの名前でした。

「美味しい」
貴方が口にする、たったそれだけの言葉に、
私の凍えていた何かが、しずかに、しずかに、ほどけてゆくのを感じました。

……雪が解けるように。
……夜が、朝にかわるように。

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あの夜のことを、私は、生涯忘れないでしょう。

すべてを打ち明けた私に、貴方は美しい言葉なんて、ひとつもくれませんでした。
慰めも、同情も。
 ただ、「泣くなら泣けよ」と、それだけ。

けれど、その不器用な一言が、
私が長い年月をかけて着込んできた、見えない鎧を
 ──音もなく、剥がしていったのです。

「俺は割と好きだぞ。
お前の素を見ても、
それが好きだって奴がここにいるだろ」

……ああ。
……ああ、と、私は思いました。

この世界に、私が、いてもいいのだと。
完璧でなくても、可愛げがなくても、臆病でも──
このままの私で、誰かの隣に、いてもいいのだと。

貴方の背中に顔を埋めて、初めて声をあげて泣いた、あの夜。
 私の中で、ながいながい冬が、ようやく終わりを告げたのです。

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── 今、夜の窓辺で、私はくまのぬいぐるみを抱いています。

貴方がくれた、この小さな温もり。
貴方がくれた、「ずっと隣にいる」という、たったひとつの約束。
 それだけで、私の世界は、もう、十分に明るいのです。

「ずっと隣にいるから」

遠い日の私へ。
 諦めないで、と、伝えたい。

……いいえ、伝えなくてもいい。
あの日のあなたの手を、いつか、温かい手が、ちゃんと取りに来てくれるから。

夜は、まだ少し、長いようです。
けれど私は、もう、ひとりではありません。

……おやすみなさい、私の大切な人。

どうか、よい夢を。

Midnight in your heart――

あなたの胸の真夜中に、
この祈りが、静かに届きますように。

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